バッハ「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ」

公開日: : 最終更新日:2021/02/22 ヴァイオリンの小話

ヨハン・セバスチャン・バッハ (1685~1750) 作曲「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ&パルティータ」は、現在ではヴァイオリン音楽の最高峰にある傑作として有名ですが、この曲の本当の魅力が知れ渡るようになったのは、20世紀に入ってからです。

そうはいっても、その存在が全く知られていなかったわけではありません。バッハの生存中に多くの写譜がなされているので、どちらかといえばバッハの作品の中では人気のあった曲でした。

どんな優れた音楽でも、それを聴く人の時代の感性や流行に合わないものは、なかなか理解されにくいことがあるようです。

バッハの没後、音楽の流行がガラリと変わり、バッハの作品もほとんど忘れられてしまいます。

19世紀後半に、メンデルスゾーン (1809~1847) がバッハの作品を発見、メンデルスゾーンを中心にバッハ復興の運動がおこり、「マタイ受難曲」など数々の傑作が再発見、再上演されました。メンデルスゾーンは、この無伴奏ヴァイオリンのための名曲もスポットライトを浴びるべきだと考えて、友人のフェルディナンド・ダーヴィト (1810~1873) に話を持ちかけますが、ダーヴィトは頑固にこれを拒否しました。理由は「ヴァイオリニストがステージでたった一人で演奏するなんてとんでもない」ということでした。

そこでメンデルスゾーンは考えて、「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ」の中の一曲である「シャコンヌ」にピアノ伴奏を付けた楽譜をもっていきました。それを見たダーヴィトはようやく納得して演奏を引き受けたそうです。

メンデルスゾーンとダーヴィトによるピアノ伴奏付きの「無伴奏ヴァイオリンソナタ」の演奏会が行われたのは1840年5月のことで、これを聴いたシューマン (1810~1856) は大変関心し、後に自ら全6曲にピアノ伴奏を付けて出版しました。

ヴァイオリン一本で一つの世界を創るというこの曲の素晴しさが本当に理解されるようになったのは、19世紀のドイツ最大のヴァイオリニスト「ヨーゼフ・ヨハヒム (1831~1907) が愛奏し、できる限り演奏会でも取り上げてその普及に務めてからです。ヨハヒムはは理論をメンデルスゾーンに、ヴァイオリンをダーヴィトに学び、シューマンとは親友として交際していました。

1892年頃、ある偶然の事情で、それまで所有者以外には知られていなかったバッハの自筆譜に出会います。その頃まで出版されていたものは、実はバッハ時代の写譜をもとにしているだけでなく校訂者の解釈または変更が加えられたものばかりだったのです。

ヨハヒムはこれらの誤りを正しいものにするため、発見された自筆譜による校訂を行いました。出版はヨハヒム没後1908年です。この頃からようやくバッハの無伴奏ヴァイオリンソナタが世界中のヴァイオリニストのレパートリーに加えられるようになりました。

最近では『バッハ作曲 無伴奏ヴァイオリンソナタ&パルティータ』は原典版に「自分のボーイングとフィンガリングを書き込む」方法で取り組むヴァイオリニスト&学習者が多いようです。

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